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大阪地方裁判所 平成9年(ヨ)1860号 決定 1997年11月26日

債権者

東郷誠一

右代理人弁護士

小林保夫

債務者

井上精機有限会社

右代表者代表取締役

井上邁

右代理人弁護士

尾﨑幸弘

主文

一  債権者が債務者に対し、雇傭契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、債権者に対し、金八六万二五六〇円及び平成九年一〇月二八日以降第一審判決の言渡しにいたるまで、毎月末日限り金二一万五六四〇円を仮に支払え。

三  債権者のその余の申立てを却下する。

四  申立費用は債務者の負担とする。

理由

第一  申立て

一  債権者

1  債権者が債務者に対し、雇傭契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  債務者は、債権者に対し、平成九年六月二八日以降本案判決の確定に至るまで、毎月末日限り金二一万五六四〇円を仮に支払え。

3  申立費用は債務者の負担とする。

二  債務者

1  本件仮処分命令申立てを却下する。

2  申立費用は債権者の負担とする。

第二  事案の概要

本件は、債務者に雇用されている債権者が、平成九年六月二〇日、債務者から企業廃止に伴い解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)を受けたが、本件解雇は、債権者を排除するための偽装企業廃止であるから、本件解雇は解雇権濫用にあたり無効であるとして、地位保全、給料仮払いを求めて仮処分を申立てたものである。

一  前提事実

疎明資料によると、次の事実が一応認められる。

1  債務者は、その肩書地に本社・工場を置き、債権者を含めた従業員四名を使用して、金属工作用・加工機械用部品・付属品の製造・加工等を営業目的とし、実際は段ボールの裁断機の部品の製造を行っていた。

2  債権者は、大阪東公共職業安定所の紹介により、平成五年一一月、フライス盤を用いた金属加工の業務に従事するものとして、債務者に雇傭された。右雇傭契約の内容は、賃金が日給月給制(一ヶ月の基本給料が決まっていて、休暇をとった場合には、右給与から差し引く。)で、毎月、前月二九日から当月二八日の間の期間分を当月末日限りに支払うものであった。

3  債務者の代表者取締役井上邁(以下「井上」という。)は、平成九年六月二〇日、債権者に対し、同年六月二七日で債務者を閉鎖すると伝えた。

4  債務者は、平成九年七月一日、債権者に対し、債権者が債務者倒産により退職したことを理由とした離職票を送付した。

二  主たる争点及び主張

1  主張

各主張書面引用

2  主たる争点

本件解雇は、偽装企業廃止に伴うもので解雇権濫用にあたり無効か。

第三  判断

一  疎明資料によると、次の事実が一応認められる。

1  井上は、段ボールの裁断機の部品の製造を個人として行ってきたが、昭和六〇年五月四日、債務者を設立し、企業活動を法人化し、自ら代表取締役となり、同人の妻も取締役となったが、その実態は変わらなかった。

2  債務者が前記製造のための所有していた主要な機械は、NCフライス盤、汎用フライス盤、鋸盤及びボール盤であった。

3  債務者の従業員は、二名から五名くらいで、井上が債権者に廃業を伝えた時の製造担当の従業員は、債権者、小林清時(以下「小林」という。)、南繁雄(以下「南」という。)の三名で、主に、債権者が汎用フライス盤、井上がNCフライス盤、南がボール盤、小林が鋸盤を扱っていた。

4  井上が債権者に廃業を伝えたころに債務者売り上げは、月額二五〇万円くらいあった。

5  井上が債務者の廃業を考え始めたのは、平成九年六月一八日ころであった。その前に、債権者と南との仲が悪くなっており、南は、井上に債権者を取るのか、自分を取るのか迫っていたが、同月前半、井上に対し、債務者を辞めて独立したい旨話した。そして南は、同月二一日ころ、井上に対し、債務者所有のNCフライス盤、汎用フライス盤、鋸盤及びボール盤を貸してほしいと要求した。

6  井上は、平成九年六月二〇日、債権者を含む債務者従業員に債務者が同月二七日で廃業する旨を伝え、同日、債務者工場での製造は中止された。

7  平成九年六月二九日、債務者所有のNCフライス盤、汎用フライス盤、鋸盤及びボール盤が東今里の貸し工場に運び込まれ、南は、同年七月一日からそこで右機械を使って、南精機工業所として段ボールの裁断機の部品の製造を開始した。

8  南精機工業所では、井上が営業とNCフライス盤、南が汎用フライス盤、新しく採用した田中実が鋸盤、同じく新しく採用された吉本光照がボール盤、井上の妻が会計などの事務をしている。

9  債務者は、井上が廃業を債権者に伝えた後、南に機械を月額二〇万円で貸与していると主張しているが、契約書は作っていなかった。

10  債務者の受注の八、九割を占める創業以来の主要受注先がダンボールを制作している旭マシナリーで、主要仕入先が阪神鐵鋼株式会社であったが、南が南精機工業所として、債権者からそのまま右受注、仕入先を引き継いでいた。

二  以上から次のことがいえる。

認定事実から井上が債務者廃業を決めた理由として、南が債権者とは一緒に働けないという以外には見当たらない。債務者と南精機工業所の実態を比較しても、従業員として債権者及び小林が抜けて、新人が入っただけでほとんど変わりがなく、特に会社の営業及び会計事務という重要な仕事は、井上と同人の妻がしており、主要な受注先、仕入先も債務者から南精機工業所がそのまま引き継いでいる。乙三の井上の陳述書では、南と債権者の仲が決定的に悪くなり、南に辞められては他に南の仕事が出来る人はいないし、新規採用も困難であるから会社が続けられないので廃業を決意した旨の記載があるが、南は、債務者従業員の時にはボール盤を扱っていたが、南精機工業所では債権者のしていた汎用フライス盤を扱い、新人が南の扱っていたボール盤を扱っている。債務者が南に主要な製造機械をすべて貸していると主張するが契約書もなく、あいまいなところが多く真実賃貸借があったか疑わしい。

以上総合すると、井上は、南と債権者の仲が悪く、南から自分を取るか、債権者を取るか迫られた結果、南を取って債権者を追い出すために、廃業の名で債権者との雇用関係を否定しているに過ぎず、かような目的の企業廃止は著しく不正義な無効なもので、右企業廃止に伴う債務者の債権者に対する解雇の意思表示は解雇権濫用にあたり無効であるといわざるを得ない。

三  保全の必要性

疎明資料によると、本件解雇前の三ヶ月の平均賃金は、月額二一万円五六四〇円であるから特段の事情がない限り右賃金をもって平均賃金とするしかない。また、第一審判決言い渡し以降の賃金については、必要性が認められない。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判官岩崎敏郎)

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